天上の花園
朝もやのミズバショウ 1978年6月18日
東京近郊で、多くの種類の高山の花を手軽に見たいといったら尾瀬をお薦めする。夜行電車や夜行バスを使えば日帰りが可能で、 湿原の植物だけでなく、至仏山・燧ヶ岳には高山植物もあり、いつ行っても楽しめる。
尾瀬にはいくつもの入山方法があり、群馬県側の大清水か鳩待峠、福島県側の沼山峠から入るのが一般的である。
尾瀬の本格的な花のシーズンは、5月半ばから始まる。まだ湿原の所々に残雪はあるものの、
ミズバショウ
が顔をのぞかせている。 ミズバショウは6月と思っている人が多く、5月は比較的人も少ない。まだ、尾瀬沼の方は残雪が多くて花は少ないので、 鳩待峠から尾瀬ヶ原へ入るのがベターだ。峠から原への下りはまだ残雪で覆われていて足元には注意が必要だ。
ミズバショウは
普通水路沿いに咲き
、中田代付近の
ヨッピ川に残雪の逆さ至仏山を写して咲くミズバショウ
は、 絵葉書にもよく使われていていささか食傷気味ではあるものの、この景色を撮影しようと大勢のカメラマンが陣取っている。 ミズバショウに隠れて目立たないが、同じサトイモ科の
ザゼンソウ
も咲いているし、黄金色の
リュウキンカ
も見逃せない。
6月も半ばを過ぎると、ミズバショウ目当ての観光客も減り少し静かになる。
この時期、原には
タテヤマリンドウ
、
オオバタチツボスミレ
が見られ、
ワタスゲ
の白い穂が風にそよいでいる。さらに、 三条の滝方面に足を伸ばすと
トガクシソウ
も見られるかもしれない。原から尾瀬沼への道は
ミツガシワ
、
キヌガサソウ
など次から次と咲き、尾瀬沼周辺の花も見頃である。
7月以降は、山が面白い。特に至仏山は蛇紋岩のため特殊な植物が多く、よそでは見られない花が幾種類も見られる。
至仏山は鳩待峠から登るのが楽だ。樹林帯を過ぎ登山道が蛇紋岩地帯に入ると、
ホソバヒナウスユキソウ
、
カトウハコベ
、
ハクサンイチゲ
、
シブツアサツキ
などが見られ、雪田跡には
オゼソウ
、
ミツバノバイカオウレン
などが咲いている。頂上付近は蛇紋岩主体の 岩場となっており、岩陰には
ユキワリソウ
などが見られる。
頂上から尾瀬ヶ原へ直下降の登山道は、一時登山者の増加による荒廃のため閉鎖されていた。今はまた通れるようになったようだ。 ただし、この道ははじめ緩やかで多くの固有植物も見られるものの、後半は狭くて急な登山道をただひたすら降りるだけである。
登山道を降りきると山の鼻である。ここは1周できる遊歩道があるのでゆっくり観察してみよう。春先はミズバショウで彩られている湿原は、 夏場は
ニッコウキスゲ
、
カキツバタ
などに変わっている。
尾瀬ヶ原は、原を縫って流れる川と浮島を抱いた池塘が散在している。湿原の向こうには燧ヶ岳、後ろには至仏山がそびえ、 真っ直ぐ続く木道を、心地よい風に吹かれのんびり歩いていると、時を忘れさせてくれる。
朝日に輝く朝もやの池塘
も幻想的である。
池塘には
オゼコウホネ
や
ヒツジグサ
が咲き、湿原には黄色の絨毯を敷きつめたように
ニッコウキスゲ
が咲いている。草間に目をこらすと、
トキソウ
、
サワラン
、
コバノトンボソウ
などの小さなラン類や
ナガバノモウセンゴケ
の白い花にも気がつくだろう。ただ、団体のハイキング客が多く、 すれ違うたびに「こんにちは」の挨拶は、爽やかではあるものの、ゆっくり撮影しにくい雰囲気だ。
原を横断し終えると、十字路と呼ばれる山小屋が多い場所に着く。ここからは、
オゼヌマアザミ
、
オゼミズギク
の多い湿原を通り、温泉小屋、 三条の滝の滝を経由して御池に下ってもいいし、白砂乗越を越えてニッコウキスゲの群落が見事な尾瀬沼に向かうもいい。 なお、燧ヶ岳にはコマクサが見られる。
8月も半ばを過ぎると花は激減し、登山客も少なくなる。
9月末から10月は紅葉の季節で、尾瀬の最後のトップシーズンである。花はないものの
草紅葉
や冷え込んだ日の早朝、一面に降りた
霜に彩ら れた浮島
の姿も撮影意欲をそそる。 ここでは鳩待峠から至仏山、尾瀬ヶ原、尾瀬沼のコースを中心に紹介したが、どのコースから入っても花が楽しめる。 またここで紹介しきれなかった花も沢山あり、急登や危険な場所もないことから、子供からお年を召した方でも色々な花がシーズン通して楽しめる 素晴らしい花フィールドである。(5〜10月訪問)
《尾瀬の四季風景》
(拡大は写真をクリックしてください)
春
ミズバショウ1
ミズバショウ2
ミズバショウ3
ミズバショウ4
尾瀬沼
夏
浮島の朝
湿原の夜明け
朝もや
ニッコウキスゲ
水面に写る至仏
秋
草紅葉
ヒツジグサ紅葉
尾瀬沼の秋
晩秋の空
霜の朝
《尾瀬に咲く花・50音順》
(月をまたいで咲く種類が多いが、主に咲く月に集約した)
白色系
黄色系
赤・紫色系
青色系
緑色・地味系
5-6
湿原
周辺
キヌガサソウ
コミヤマカタバミ
ギンリョウソウ
サンカヨウ
タムシバ
ツバメオモト
マイヅルソウ
ミズバショウ
ミツガシワ
ワタスゲ
オオバキスミレ
オオバミゾホオズキ
オゼタイゲキ
フキ(フキノトウ)
リュウキンカ
イワカガミ
オオサクラソウ
ガクウラジロヨウラク
ザゼンソウ
ショウジョウバカマ
シラネアオイ
トガクシソウ
ヒメシャクナゲ
ムラサキヤシオ
エゾエンゴサク
オオバタチツボスミレ
キクザキイチゲ
タテヤマリンドウ
テングクワガタ
クルマバツクバネソウ
タケシマラン
7-8
湿原
周辺
コアニチドリ
ウラゲコバイケイソウ
サジバモウセンゴケ
ナガバノモウセンゴケ
ヒツジグサ
ミズチドリ
モウセンゴケ
オゼコウホネ
オゼミズギク
オタカラコウ
カキラン
キンコウカ
コタヌキモ
ニッコウキスゲ
ヤナギトラノオ
オオヤマオダマキ
オゼヌマアザミ
クロバナロウゲ
コオニユリ
サワラン
ツルコケモモ
トキソウ
ハクサンチドリ
ノアザミ
ノビネチドリ
カキツバタ
コバギボウシ
サワギキョウ
オオマルバノホロシ
アオヤギソウ
オオヤマサギソウ
オオレイジンソウ
オニノヤガラ
オヒルムシロ
コバノトンボソウ
ホソバノキソチドリ
ヤチラン
7-8
至仏
アカモノ
アリドオシラン
ウメハタザオ
カトウハコベ
コケモモ
タカネトウウチソウ
ハクサンイチゲ
ハクサンシャクナゲ
ホソバツメクサ
ミツバノバイカオウレン
ミヤマダイモンジソウ
ミヤマホツツジ
イワオトギリ
シナノキンバイ
ジョウエツキバナノコマノツメ
ハクサンサイコ
ホソバヒナウスユキソウ
オオバスノキ
シブツアサツキ
ジョウシュウアズマギク
ジョウシュウオニアザミ
タカネシオガマ
タカネシュロソウ
タカネナデシコ
タカネバラ
ツルガネニンジン
ヒメシャジン
ヤマトリカブト
オゼソウ
クモイイカリソウ
マルバヘビノボラズ